メディア総合研究所 翻訳事業部長インタビュー

MRI語学教育センターの母体である翻訳会社、メディア総合研究所では、企業や官公庁をはじめとした多くのお客様から、日々翻訳案件を受注しています。さまざまな分野や業種でAIの活用が進むなか、ここ数年、産業翻訳の現場でもAIの影響が及んできています。
「今、翻訳業界にどのような変化が起きているのか?そして、これからの翻訳者に求められるものとは?」
産業翻訳を取り巻く環境と今後の展望について、メディア総合研究所・翻訳事業部の築島事業部長にお話をうかがいました。翻訳者を目指されている方、これから翻訳者への第一歩を踏み出そうとしている方など、ぜひご自身のキャリアを考える参考にしていただけたら幸いです。

2023.10.11


Q:機械翻訳の精度向上やChatGPTの登場など、AIの活用により翻訳を取り巻く環境にもさまざまな変化が起きていると思います。産業翻訳の現場で日々お客様と接する中で、どのように感じていらっしゃいますか?

築島:翻訳が大変身近なものになったことで、ご依頼の際「より短納期で」という要請は高まっているように感じます。また、機械翻訳の仕上がりレベルと、これまで我々翻訳業者が想定していた一定以上の翻訳レベルとの「間」を突くもの、すなわち「翻訳として必ずしも完璧ではなくとも、内容が問題なく伝わる・把握できるもの」を求められる動きもあり、サービスが一様でなくなりつつあるように思います。

Q:翻訳サービスに対するお客様のご要望が多様化しているということですか?

築島:そうですね。たとえば、機械翻訳を使う機会が増えてくると、利用シーンとの兼ね合いで「急ぎだし、このくらいでいいだろう」と考える方も出てくるでしょうし、そうなればご依頼いただくものに関しても、求められる成果品質にばらつきが出てくるのはある意味必然のように思います。翻訳業界内では、多様化するご要望に応えるためにも、機械翻訳を遠ざけるのではなく共存する方向への模索が始まっています。機械翻訳はその特性上、用語統一が苦手だったり、大胆な省略をしてきたりという傾向にありますが、それらを踏まえ「翻訳支援ツール」※との併用を基本線に据えながら、機械翻訳を制作上も活用していく工程を試行しています。

※翻訳支援ツール:別名CATツール。用語集や参照すべき表現を確認しながら効率よく翻訳作業を進めるためのソフトウェア。

Q:機械翻訳の精度が向上すると、翻訳会社に依頼する案件が減ってくるのではという懸念もあります。受注する仕事量や内容の変化はどう感じていらっしゃいますか?

築島:案件内容の変化はある程度みてとれますね。先ほど「多様化」と述べましたが、ごく大まかに内容がわかればよいもの、たとえば海外の文献などは、機械翻訳を利用できる環境にあればひとまず事足りるかもしれず、翻訳業者へのご依頼は抑えられる傾向にあるかもしれません。一方で、機密性の高いものや、外部公表・提出を想定されているものについては、情報管理や品質確保の観点から、これまでと変わりなく翻訳のご依頼をいただいています。

内容についていえばこれまでも、たとえば海外に送られるメールの翻訳をご依頼いただく、といったことはほとんどありませんでしたし、現段階での感覚にはなりますが、機械翻訳の活用は対象文書や利用シーンとの兼ね合いで使い分けておられる方がほとんどなのではないでしょうか。

なお、AIの活用という視点からは少し離れますが、近年の社会情勢も踏まえると、情報管理やコンプライアンスに対する意識の高まりから、これら分野の、たとえば社内研修資料の翻訳などはむしろ増えているように感じています。またコロナ禍を経てWeb会議が広く浸透したためか、お預かりする資料としてプレゼンテーション資料や動画ファイルの取り扱いが増加しています。
少なくとも現在の状況を踏まえると、今後翻訳ニーズは「内容の変化、多様化はありながらも一定量は保たれていく」と考えています。

Q:これから翻訳者を目指される方にとって、必要なこと、身につけていただきたいスキルなどはありますか?

築島:先ほど少し触れましたが、機械翻訳は我々にとって遠ざけるべきものではなく、活用、共存の道を探るべきものと考えていますし、もっといえばあくまで「人間が使う道具」である、ともいえます。そうした観点から、これから翻訳者を目指される皆さんにおかれましてはまず、今の状況にある意味「馴染んで」いただければと思っていますし、具体的には機械翻訳の特性を理解していただいたうえで、求められる速度と正確性を両立していくこと、そのためにもぜひ翻訳支援ツールを使いこなす技術を、併せて身につけていただきたいと考えています。

Q:翻訳スピードや正確性といった翻訳技術だけではなく、翻訳支援ツールを使いこなすスキルが必要ということでしょうか?

築島:はい、ただどちらかというと翻訳支援ツールを使うことで速度と正確性の両立を図る、というイメージです。これはなかなか世に出にくい話ですが、翻訳現場では年々こうしたツールに十分対応できるかどうかが翻訳者のひとつのスキルと考えられるようになってきています。実際、当社の案件の多くで翻訳支援ツールを使用する流れになっていますし、お客様から提供された用語集や参考情報を組み込み、一部機械翻訳も活用して、両者を参照しながらツール上で翻訳者が翻訳を行う、といったケースもあります。お客様もそのあたりは心得ておられて、指定した参考資料や用語集を十分活用してもらえることを期待される向きがありますので、そうしたツール類へのリテラシーを高めていただければと思います。
ちょっと宣伝させていただくと、MRI語学教育センターのStep2講座でもツールを使った学習を取り入れていますので、併せて検討してみてもらえれば(笑)
なお、今後さらに技術革新が進めば翻訳作業環境もさらに変化する可能性は十分にありますので、そうした動きに常日頃敏感であっていただけるといいですね。

Q:最後に、翻訳者を目指している方へのメッセージがあればお願いいたします。

築島:先ほども述べた通り、今後も一定の翻訳ニーズは続いていくと考えておりますが、AI技術の進歩によって業界内の競争は激しくなっています。我々も外部環境の変化に対応すべく経営努力の最中にあり、これまで述べた以外にも、たとえば動画・音声案件に対応できるよう自社で作業用ツールを開発して翻訳者の方に提供する、といったことも行っています。つい10年ほど前までは文書データのやりとりだけでよかったものが、取り扱う内容も、データ類も、作業環境も変わりましたし、その動きはますます加速しつつあります。

大きな変革期を迎えている今、翻訳者を目指そうとする皆さまにはぜひそうした変化を感じ取っていただき、バラエティに富んだ状況に「適応」して、新しい時代の翻訳者としてご活躍いただければ、我々にとっても大変心強く、ありがたく思います。

近い将来、一緒にお仕事ができることを楽しみにしております。


株式会社メディア総合研究所 翻訳事業部長
築島大祐

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