翻訳のお仕事実務翻訳者(修了生)にインタビュー ~実務翻訳の仕事とは?~Vol.3
文章を書くのはとても創造的な作業です。いいお仕事がしたい、という気持ちで日々翻訳に取り組んでいます
Vol.3 五十嵐裕さん(実務翻訳者)
今回は翻訳講座のビジネス・経済コース、契約・法務コースを修了し、翻訳のお仕事をされている五十嵐裕さんにオンラインでお話をうかがいました。
五十嵐裕さん(実務翻訳者)
基礎、Step1、Step2のビジネス・経済 英→日&日→英コースを修了後に翻訳者登録し、ビジネス分野で実務翻訳のお仕事をスタート。その後、翻訳者としてお仕事をしながら、対応分野を広げるべく、Step1、Step2の契約・法務 英→日&日→英コースを受講し、契約分野においても翻訳のお仕事をスタート。現在は、ビジネス、契約書関連を軸に和訳・英訳双方に対応し、幅広い分野で翻訳のお仕事を手がける。
- 翻訳の学習を始めたきっかけや翻訳者を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
- 五十嵐さん:ずっとサラリーマンとして電機メーカーで経理の仕事をしてきて、66歳で定年退職をしました。時間ができて、使わないと頭も体力も落ちるので何かやろうと思ったのがきっかけです。サラリーマン時代に、アメリカに4年、ドイツに7年と海外の子会社に勤務し、英語で仕事をしていました。もともと語学を勉強するのは好きだったので、時間ができて、英語を生かして仕事をしたいと思うようになり、「翻訳」という仕事を考え始めました。若いころから、文学や小説などを訳してみたいなという思いがあり、漠然と翻訳に対する憧れもありましたね。ただ、経理の仕事をずっとしてきたこともあり、まずはビジネス分野の翻訳をと思いました。
仕事を始めて1、2年してから、もう少しお仕事の範囲を広げたいと思って、契約・法務コースも受講しました。
- 受講をしてみて、受講中にこだわったことやおすすめの学習方法などはありますか?
- 五十嵐さん:学習を始めてみて、語彙が広くないと翻訳できないことを実感しました。語彙を増やす、また関連した知識を広げるために、図書館に行って英文の新聞や雑誌を読んだり、NHKのラジオ講座(ビジネス英語)を毎日聞いたりしていました。テレビとは異なり、ラジオ講座は毎日あるので、英語の表現について新しく学ぶことが多かったです。
- 受講中に点数が伸びなかったときはありましたか?行き詰ったときなどはどう対処していましたか?
- 五十嵐さん:ありました。私の場合、Step2講座の1回目の受講では90点を超えられなかったので、Step2修了後に専修科に進んでそこで翻訳者登録に至りました。できるだけ早く翻訳者になりたいという思いがあったので、添削の先生のアドバイスをよく読んで、間違いが再発しないように、改善すべき点は改善するようにと思って取り組んでいました。あとは語彙を増やすために新聞や雑誌を読むことや、ラジオ講座も継続していました。
- 和訳・英訳同時に受講してみていかがでしたか?
- 五十嵐さん:最初から和訳も英訳も両方やりたいと思っており、同時に受講した方が早く修了できるので同時に学習しました。実際学習してみて、特にやりにくさもありませんでしたし、どちらも同じレベルでステップアップできるのでよかったと思っています。個人的には、和訳の方が自分の表現力を駆使できるので好きなのですが、不思議なことに、受講ではビジネス・経済、契約・法務いずれも英訳の方が先に登録になりました。
- 受講と仕事の一番の違い何ですか?
- 五十嵐さん:受講して成績が悪くても自分が困るだけで人に迷惑はかかりませんが、お金をもらって仕事をするのであれば、納期を守れなかったり、品質が悪かったりするとお客様や案件に関わる方々に迷惑をかけることになってしまいます。受講と仕事ではそうした「責任」が全く違うので、いいお仕事がしたい、という気持ちで日々翻訳のお仕事に取り組んでいます。
仕事を始めて間もない頃は、納期に間に合わせるために睡眠時間が2、3時間ということもありましたが、最近はもう自分がどのくらいできるのか、というのが把握できているのでそういうことはなくなりました。打診時にお仕事のボリューム(分量)と納期を見て判断することができるようになりました。
- 現在はどんな内容の翻訳をされていますか?
- 五十嵐さん:一番多いのは、決算関連の文書です。企業の四半期ごとの決算文書や有価証券報告書、監査報告書などが多いですが、実際には多種多様で本当にいろいろなものがあります。ビジネス関連ですと、税制に関する説明書やセミナーの教材、国際会議でのプレゼン資料、議事録、新製品のプレスリリースなどもありますね。法務関連はやはり契約書が多いです。英訳も和訳もどちらもありますが、ビジネス関連は英訳が、契約関連は和訳が多い印象です。
英訳の場合は原文となる日本語をまず読み込むわけですが、その際、結構原文の中に知らない日本語が出てくることがあります。業界用語や外来語だけではなく、普通に昔からある言葉なのに「こんな言葉があったのか」という新しい発見をすることもあります。なので、英訳といえども日本語の勉強にもなっています。
- お仕事環境やタイムスケジュールについて教えてください。
- 五十嵐さん:翻訳のお仕事は自宅の自分の部屋で行っています。情報セキュリティの観点から、翻訳の仕事専用のデスクトップパソコンを購入して、翻訳の仕事以外には使わないようにしています。ウィルス対策ソフトも入れて、情報漏洩などを起こさないように対策しています。
決まったタイムスケジュールは特にないのですが、依頼を受けたら時間がある限り早めに進めるようにしています。ただ、あまり長時間に及ぶと仕事の能率が落ちてしまうので、適宜休憩は取るようにしています。
- 翻訳のお仕事の楽しさややりがいなどがあれば教えてください。
- 五十嵐さん:いろいろなドキュメントの依頼が来ますので、お仕事を通してさまざまな知識を得ることができます。原文を理解しないと翻訳はできないので、知らない言葉や知識は当然インターネットなどで調査するわけですが、そうした過程で新しい知識を得て視野が広がり、非常に勉強になります。新聞を翻訳する案件などもあるのですが、金融やマーケティングをはじめ、いろいろな分野で日々新しい言葉が出てきているなと実感しています。
また、文章を書くのはとても創造的な作業です。翻訳では原文の意味を正しく、読む人にわかりやすく伝えるわけですが、その結果出てくる訳文は人によってそれぞれ違います。そのため、うまく翻訳するために、文章を組み立てていく過程に面白さを感じます。最近は機械翻訳(MT)を活用した翻訳案件を受ける機会も多いのですが、同じような文章でも機械翻訳の結果がその都度変わってきたり、意味は同じでも違う表現が使われていたりすることがあります。機械翻訳の訳文を修正しながら、機械翻訳のソフトの中にも複数の違ったコンピューターの人格が入っているようで面白いなと感じています。
- インタビュー中、さまざまな質問に対して考えながら言葉を選んでわかりやすく回答してくださっているのが印象的でした。多種多様な案件に対応するため、現在も英字新聞やラジオを通して、ボキャブラリーを蓄積されているとのことで、そうして得た知識が翻訳に生かされているのだなと実感しました。(MRI語学教育センター 鈴木)
過去のインタビューはこちら
Vol.1 宮坂祐子さん(実務翻訳者)
Vol.2 オルダトン美和さん(実務翻訳者)
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